
高周波減衰量
高周波、マイクロ波等の電磁波は情報通信システム、レーダをはじめ、医療技術や加熱機構等の幅広い分野で使われている。低い周波数領域の電磁波回路では電圧、電流等が基本量として使われている。しかし、高い周波数領域では、電磁波の波長は測定対象物の寸法に同程度か、それより短いので波動伝搬的な取り扱いが必要となる。伝搬に伴い生じる高周波減衰量は電磁波回路を表す基本量の1つとして重要である。
高周波減衰量は、測定対象物(DUT)の入出力信号の電力の比により定義する。図1のように反射波のない理想的状態の回路を用いて、負荷(LOAD)に吸収される電力を測定してDUTの有無により減衰量を評価する。数値表現の簡便さで、通常dB(デシベル)で表され、例えば電力の比が100分の1、 100万分の1の場合それぞれ20 dB と60 dBになる。

図1 高周波減衰量の定義
高周波減衰量標準の開発・確立
計量標準総合センター(NMIJ)は、国を代表した計測標準研究所(NMI)として10 MHz 〜110 GHzの高周波減衰量標準の整備、供給を行い、国際標準に整合させるための国際比較に参加している。当研究室では、下記のとおり高周波減衰量の一次標準器を決定し、独自に高周波減衰量標準の開発を行っている。
一次標準器:1 kHzで動作する誘導分圧器(IVD)を採用している。IVDは、低周波標準へのトレーサビリティがあり、高精度測定に適し温度の依存性が少なく安定しているため採用した。
測定システム:下記のとおり2種類の減衰量測定装置を使用している。
周波数範囲40 GHz以下では、IVDを標準器とする中間周波置換法(図2a)を開発した[1][2][3][4]。DUTを通った高周波信号をヘテロダイン検波により1 kHzの信号に置き換え、高周波減衰量を1 kHzのIVDの電圧比に置換測定する。この測定システムは、デュアルチャンネルで構成され、一種のブリッジ回路になり高精度な測定システムが実現できる。要点はチャンネル間の高いアイソレーションであり、本システムの開発において10 MHz〜1 GHzの部分的周波数ではあるが、EO/OE変換器−光ファイバによる高性能のアイソレーション回路を実現した[2][5][6][7]。さらに40 GHzまでの拡張を目標に研究を行っている。
40 GHz以上の周波数領域では、従来、ピストン減衰器(WBCO)を標準器として測定するスイッチング型中間周波置換法の検討を進めてきた[8]。このシステムでは中間周波数を30 MHzと高く設定できるため、要求される高周波信号のスペクトル純度条件が低く、ミリ波帯域の減衰量測定システムとして有効であるが,一次標準として精度を維持するためにはピストン減衰器の減衰定数の決定精度や機械的な耐久性に問題があった.そのため,位相同期回路(PLL)を用いたダブルヘテロダイン方式によるIF安定化手法によってIVDを標準器として利用する高精度な減衰量測定法を提案し,現在50 GHz〜75 GHzにおける減衰量測定システム(図2b)を開発中である.当面は110 GHzまでの周波数範囲を目標に開発を行う予定であるが,将来的にはTHz帯等のさらに高い周波数への拡張を目標に研究を行っている.

(a)

(b)
図2 高周波減衰量測定システム
(a) IVDを用いたデュアルチャンネル中間周波置換法 (10 MHz〜40 GHz)
(b) IVDを用いた安定化中間周波置換法(40 GHz 以上)
高周波減衰量標準の供給とトレーサビリティ体系
現在実施している高周波減衰量の校正サービスは以下のとおりである。トレーサビリティ体系は図3に、測定装置の写真を図4に示す。産業界のニーズを踏まえながら,さらに範囲拡張の開発を進めている。
高周波減衰量標準供給・校正サービスの種類と範囲
|
校正対象 |
校正範囲 |
不確かさ [dB] |
校正の種類 |
|
ピストン 減衰器 |
30 MHz, 100 dB以下(挿入損含む) |
0.002-0.02 |
JCSS |
|
同軸 可変減衰器 |
周波数 0.01, 0.03, 0.06, 0.1, 1,
5, 10, 12, GHz 減衰量 100 dB以下 |
0.002-0.02 |
JCSS |
|
周波数 18 GHz以上40.0 GHz以下 |
0.005-0.04 |
JCSS 依頼試験 |
|
|
同軸 固定減衰器 |
周波数 0.01 GHz以上18 GHz以下 減衰量 80 dB以下 |
0.008-0.068 |
JCSS 依頼試験 |
|
導波管 可変減衰器 |
周波数 18 GHz以上26.5 GHz以下 |
0.005-0.025 |
依頼試験 |
|
周波数 26.5 GHz超40 GHz以下 |
0.005-0.041 |
依頼試験 |
|
|
周波数 50 GHz以上75 GHz以下 |
0.008-0.058 |
依頼試験 |
校正試験,手数料に関しては下記をご参照ください。

図3 高周波減衰量のトレーサビリティ体系

図4 高周波減衰量測定システムの外観
国際比較
2003年6月には、高周波減衰量の国際比較(CCEM-RF-K19.CL)に参加した。この国際比較では、今後幹事国のNMIの集計により参加国の同等性が公表され、国際度量衡局の校正能力リストに加えられることになる。
将来の課題
各周波数帯に対応した高周波減衰量、位相量標準の確立、トレーサビリティ技術向上のための仲介器の開発、校正に必要な技術のハード・ソフトの開発を行う。
発表論文
[1] T.Kawakami, A.Nagatuka, M.Maeda, S.Igarashi, “RF Attenuation Measurement System with 1-kHz Voltage Ratio Standard,” IEEE Trans. Instrum. Meas., VOL.42, No.6, pp.1014-101, Dec. 1993.
[2] A.Widarta, T.Kawakami, “Attenuation Measurement System in the Frequency Range of 10 to 100 MHz,” IEEE Trans. Instrum. Meas., VOL.52, No.2, pp302-305, Apr. 2003.
[3] A.Widarta, T.Kawakami, K.Suzuki, “Dual Channel IF Substitution Measurement System for Microwave Attenuation Standard,” IEICE Trans. Electron., VOL.E86-C, No.8, Aug. 2003.
[4] A.Widarta, D. Sugawara, T.Kawakami, K.Komiyama, “Japan National Standard of Attenuation in the Frequency Rangeof 10 MHz to 18 GHz,” in Proc. 2004 Conference on Precision Electromagnetic Measurements,London, UK,pp.103-104,2004/06
[5] A. Widarta and T. Kawakami, “Optical fiber isolation in RF dual channel measurement system,” Electronics Letters, vol.38, pp.957-958, Aug. 2002.
[6] A. Widarta and T. Kawakami, “Optical fiber link for perfect isolation in microwave dual channel measurement system,” in Proc. 2003. Asia-Pacific Microwave Conf., Seoul, Korea, Nov. 2003.Vol.01, pp584-585
[7] A. Widarta, H. Iida, T. Kawakami and K. Komiyama., “Perfect isolation in microwave dual channel measurement system using an optical fiber assembly,” in Proc. 35 th European Microwave Conf., Paris, France, Oct. 2005, pp.1177-1178.
[8] 飯田仁志,ウィダルタ アントン,川上友暉,小見山耕司, “50 – 75 GHz 帯における高周波減衰量標準の開発−並列型中間周波置換法の検討−” 2005年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会講演論文集,C-2-115,p.136
[9] T.Kawakami, A.Widarta , K.Komiyama, “A Consideration of Linearity in Heterodyne Detection,” in Proc. 2004 Conference on Precision Electromagnetic Measurements,London, UK,pp.626-627,2004/06